とみおか。


10171293_664248810288385_1301781557_n

かつて富岡という駅が福島にあった。東日本大震災以降、原発の関係で放置せざるを得なかった駅ある。去年の一月には駅舎の一部が解体されてたため、写真のような景色はもうない。「ここだけ時間が止まっているみたい」と私がつぶやくと、当時、案内をしてくださっていた傍らの友人が、

 

「時間が止まるってことはないんだよ」

 

とそっと諭してくださったことを憶えている。どんなに愛されていても、触れられなければ、万物は劣化する。いや、エントロピーの法則から視れば、広大無辺の宇宙で劣化と逆方向に進むこと自体が奇跡なのだけれども。

 

 

私の故郷の最寄り駅もまた富岡駅といった。福島の富岡櫻を愛でられた頃、私は神奈川の富岡櫻を愛でたのち、時折、福島の富岡櫻を愛でるという四季のズレを楽しんでいたとおもう。あれから私はプノンペンとご縁を頂戴し、その土地ではもはや地産地消できぬ哀しみの物語があることを少し識るようになった。しかし、哀しき物語でさえも伝えられなければ、やはり駅舎のように毀れていってしまうのだろう。陰なきところに陽はなく、陽なきところに陰はない。今の世界に必要なのは、逆回転する陰陽をまわせる器を持つ車軸であり、未来までまっすぐ敷かれた線路なのかもしれない。