『立原正秋』


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 女性に好きな作家はと訊かれたら、立原正秋とこたえるようにしている。読書好きなひとであれば、そういえば昔、そんなひとがいたわねと云ってくださる。立原が草する登場人物は、当時でさえもそんな古風な男女は今どきいないと云われていた。ましてや平成が終わろうとしている今となっては、絶滅危惧種の人間模様が描かれているわけだ。

 過日、ロシアンマーケット沿いを『残りの雪』を片手に歩いていると、香木をもとめている物静かなクメール人老夫婦が眼にはいった。その一場がなんとも云えず、私は着物が似合いそうな男女だとふとおもった。にぎやかな発展を日々かさねるプノンペン市街にも、まだ閑静さというべきものが残っている。それはおそらくひとの裡にある情態であって、それこそが立原が愛した空間なのだとおもう。